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CD紹介:おすすめ盤

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現在アンチェルは「我が祖国」と「新世界」の録音で知られていると言っても差し支えない。入手しやすいCDがあまりに限られているため見過ごされがちだが、実際には古典から近現代まで幅広いレパートリーを持っていた。当時は近現代のスペシャリストとして脚光を浴びたが、「それぞれの時代のスタイルで演奏できるように」という視点に貫かれた演奏は、どれを取っても聴き応えがある。

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近現代

知性とあたたかさを兼ね備えたアンチェルの近現代。「現代音楽を演奏するとき機械にならなければならない気がするが、私はまだ人間でありたい」という言葉どおりの演奏だと思う。


ヤナーチェク:シンフォニエッタ/タラス・ブーリバ

管楽器の響きがやわらかい。打楽器も激しく主張しすぎない。だが、ヤナーチェクの思いの丈が胸に迫ってくる。ヤナーチェクは故郷ブルノから足を踏み出すことなく、そこに住む人々の言葉を採集し、自らの音楽に反映させようとした。その彼独特の作曲語法をアンチェルがしっかりと咀嚼していることが伝わってくる。


Edition Live Karel Ancerl vol.3 Prokofiev (アンチェル・ライヴ・エディション第3巻 プロコフィエフ)

ベートーヴェンのピアノ協奏曲第4番同様(PR254 000/01)、モラヴェッツがアンチェルと息の合った演奏を見せている。アンチェルの「ハルサイ」を客席で聴いて楽屋まで駆けつけたというモラヴェッツ。イントロの和音からして圧倒的なエネルギーが感じられるが、耳障りなところがひとつもない、両者の音楽性が溶け合うような演奏である。けっして力任せに押し切らない。アンチェルの知情意のバランスの取れた演奏の中でも、その特徴が際立っている。


Martinu:Symphonies Nos.1、3、5 (マルティヌー:交響曲第1、3、5番)

耳から鱗が落ちるような、どこかユーモアの感じられる響き。第5番に関してはチェコフィルとのスタジオ録音(SU3694)、トロント響とのライヴ録音(CZS 5 75091 2)もあるが、こちらはプラハの春音楽祭でのチェコフィルとのライヴ。


Karel Ancerl Gold Edition vol.5 (アンチェル・ゴールド・エディション第5巻)

アンチェルが近現代のスペシャリストであったことを感じずにはいられない。明晰なスコアの読み、磨き抜かれたアンサンブル。だがセンセーショナルな表現に走ることなく、どこか血の通ったあたたかさを感じさせる。


Karel Ancerl Gold Edition vol.16 (アンチェル・ゴールド・エディション第16巻)

「ロミオとジュリエット」はそのストーリー性もあり、アンチェルのさまざまな持ち味を味わうことができる。ほとばしるような躍動感、痛いほどの静寂。一気に駆け抜ける「タイバルトの死」もアンチェルならでは。もちろん特筆すべきは二人の出会いの場面での優しさに満ちた演奏。10曲の何と色彩豊かなことだろう。


お国もの

アンチェルは「新世界」と「我が祖国」だけの指揮者ではないが、これらの曲も含めたチェコの作品はやはりおすすめ盤の筆頭に挙げられる。


Smetana:Die Verkaufte Braut (スメタナ:売られた花嫁)

戦後楽壇に復帰して間もない頃の記録。チェコ音楽界が復興半ばであったことなど微塵も感じさせない。スイング感あふれる「序曲」に始まり、一曲また一曲と聴き続けてしまう。チェコフィルの完璧なアンサンブルに比べると出来は劣るが、歌手を包み込むような伴奏といい、そこにはすでにアンチェルの音が広がっている。アンチェルはチェコフィル就任後オペラを手がけることはなく、これといって有名なオペラの録音があるわけでもないが、最初の仕事はプラハ解放劇場の伴奏指揮者だったのだとはっとさせられる。


Smetana:Ma Vlast (スメタナ:連作交響詩「我が祖国」)

1968年5月12日、プラハの春音楽祭でのライヴ。同年8月ソ連がプラハを侵攻し、チェコフィルとの最後の「我が祖国」となった。アンチェルの音楽は楽章間のつながりが自然で、一気に聴くことができる。第4曲「ボヘミアの森と草原から」のフーガのみずみずしさ。各パートともテーマをひといきに歌い上げ、間延びすることがない。この音楽祭の名演を集めた「プラハの春音楽祭」というオムニバス(AN2150)には、第4曲が単独で収められているほど。


Karel Ancerl Gold Edition vol.19 (アンチェル・ゴールド・エディション第19巻)

ドヴォルザークの「田園」と言われる第6番は、アンチェルの音楽性と相まってあたたかな佇まい。第3楽章に置かれたチェコの民族舞踊「フリアント」の切れ味の良さも光る。


ドヴォルザーク:交響曲第9番「新世界より」/序曲「自然の王国で」/序曲「謝肉祭」

長きにわたり「新世界」の名盤として君臨しているだけのことはあり、やはりおすすめの一枚。何度聴いても胸にしみる「ラルゴ」。後半のフェルマータの美しさに息を呑む。


Karel Ancerl Gold Edition vol.6 (アンチェル・ゴールド・エディション第6巻)

明るく優しいマーラー。抑えた表現に、マーラーがボヘミア人だったことに気付かされる。


Karel Ancerl:Encores (カレル・アンチェル:アンコール)

近現代のレパートリーを拡大したアンチェルだが、古典派時代に活躍したチェコの作曲家・ヴォジーシェクの交響曲にも光を当てている。これがなかなかの佳曲である。スタジオ録音(SU3678)もあるが、ゴールドエディションはエコーの強い感があり、こちらをおすすめしたい。


モーツァルト

アンチェル自身は意外にもモーツァルトを一番のお気に入りとしていた。アンチェルの古典こそ一聴の価値があると思う。


Centenaire Karel Ancerl (アンチェル生誕100年)

「生誕100年」と銘打ったCD。ソリストは素晴らしいがチェコフィルとの演奏ではなく、オケの水準はもうひとつ。だが、曲全体にちりばめられているレクイエム動機がしっかりと浮かび上がって聞こえ、まるで一反の織物を見ているかのような美しさである。速めのテンポだが、フレーズがひといきに感じられ、旋律どうしの絡み合いがわかりやすい。まさにアンチェルならではのレクイエム。


Mozart:Sinfonien Nr.36 & 38/Prokofjew:Sinfonie Nr.1 (モーツァルト:交響曲第36番、第38番/プロコフィエフ:交響曲第1番)

ここには、生きたモーツァルトがある。彼の中でよどみなく音楽が生まれるさまが伝わってくる。対位法的手法によって書かれた意欲作「プラハ」。アンチェルはその動機労作を見事に汲み取り、立体感ある響きを生み出している。展開部でのたたみかけるような音楽運びには圧倒される。まさに一瞬たりとも息をつかせぬモーツァルト。


Mozart:Violin Concerto No.5/Piano Concerto No.23 (モーツァルト:ヴァイオリン協奏曲第5番/同:ピアノ協奏曲第23番)

プラハの春音楽祭でのライヴ。作品の核というべき第3楽章の「トルコ風」の部分が素晴らしい。シュナイダーハンとの掛け合いの楽しさ、弦の艶やかな響き、気品あるコル・レーニョ。ここが聴きたくて、また最初から聴いてしまう。


Edition Live Karel Ancerl vol.4 Mozart (アンチェル・ライヴ・エディション第4巻 モーツァルト)

1966年11月11日、シュナイダーハン&ゼーフリート夫妻を招いてのライヴ(ヴァイオリン協奏曲第2番のみ1968年5月24日プラハの春音楽祭での録音。チェコフィルとの最後の「我が祖国」直後の演奏ということになる)。モーツァルト弾きとして名高い夫妻との共演を慈しむかのような空気がある。第31番「パリ」も生命力あふれる演奏。


Karel Ancerl Gold Edition vol.18 (アンチェル・ゴールド・エディション第18巻)

アンチェルの伴奏はソリストを引き立てるように控えめで、交響曲とは違う魅力を味わうことができる。


ハイドン

アンチェルは晩年、高校時代に数学の先生が「ジャズのように」と振ったハイドンを忘れられない演奏として語っており、ハイドン流のユーモアを余すところなく伝えるチャーミングな演奏ばかりである。


Edition Karel Ancerl vol.2/K.Ancerl et le Concertgebouw d'Amsterdam (エディション・カレル・アンチェル 第2巻/ アンチェルとアムステルダム・コンセルトヘボウ)

「コンセルトヘボウ・アンソロジー 1970-1980」という14枚組(RCO 06004)がリリースされた際、豪華な顔ぶれのなかから許光俊氏が「全曲中の白眉」と評価したのはこの「オックスフォード」である。


Karel Ancerl Edition vol.1 (カレル・アンチェル・エディション第1巻)

アンチェルの素晴らしさは、各楽章の魅力を浮き彫りにしながら全曲一気に聴かせるところにある。この第93番は終楽章がまた素晴らしい。


Karel Ancerl:Encores (カレル・アンチェル:アンコール)

もちろん「ロンドン」もおすすめ。


ベートーヴェン

アンチェルのベートーヴェンは、明るく優しい。「運命」など聴くと何かそぐわない感じがするのは否めず、優等生的なベートーヴェン像は好みが分かれるところかもしれない。そんなアンチェルのベートーヴェンを「ベートーヴェンの絶対盤」と言うつもりもないが、アンチェル好きにはたまらない。最晩年の「田園」、これもまた知られざる名演だと思う。


Edition Karel Ancerl vol.1 (エディション・カレル・アンチェル 第1巻)

トロントに亡命してからの貴重な記録である。「田園」では、当時一流とは言えなかったトロント響からここまでのものを引き出したアンチェルに驚く。病を押して指揮台に上がっていたアンチェルの最晩年の演奏(1972年)でもある。続く第8番もアンチェルの音楽性に合う作品。メトロノームになぞらえられる第2楽章の優しいリズムの刻み方が耳に残る。


Ancerl a Ameterdam vol.2 (アムステルダムでのアンチェル 第2巻)

アンチェルは戦前からコンセルトヘボウと良好な関係にあり、亡命後も客演を重ねているが(1970年、その時期のライヴ)、「虚飾を排してスコアに忠実に」というアンチェルの考え方に寄り添うことのできるオーケストラだったと見えて名演が多い(TAH124-125)。ラフマニノフもスマートな演奏で、続けて聴きたい一枚。


Edition Live Karel Ancerl vol.1 Romantic Concerto for Piano (アンチェル・ライヴ・エディション第1巻 ロマン派のピアノ協奏曲)

モラヴェッツとのピアノ協奏曲第4番が聴きもの。


Karel Ancerl Gold Edition vol.9 (アンチェル・ゴールド・エディション第9巻)

アンチェルらしい、速めのテンポの引き締まった演奏。傑作の陰に隠れがちな第1番に息吹を与えている。


ブラームス

膨大な楽譜と向き合い、ルネサンス期からロマン派までの音楽を深く洞察したブラームス。奥深い内容を持ちながらも語りかけるような音楽は、アンチェルに似合っている。


K.Ancerl《Primus inter Pares》vol.2(アンチェル:《Primus inter Pares》第2巻)

〈ハイドンの主題による変奏曲〉のスタイリッシュな演奏が光る。


Karel Ancerl Gold Edition vol.31 (アンチェル・ゴールド・エディション第31巻)

明るくのびやかな印象でありながら動機的には緻密に編まれたブラ2。アンチェルにうってつけの作品ではないだろうか。バルビローリの名演にもまったく引けを取らない。


Karel Ancerl Gold Edition vol.9 (アンチェル・ゴールド・エディション第9巻)

ブラームス第1番は1959年に来日した際のプログラムに含まれており、「ブラームスがさがしもとめていたあたたかな人間的なうた」と評された。基礎動機の綾なすさまが美しく、素朴で真摯なブラームス像が浮かぶ。


その他(オムニバスなど)

Great Conductors of the 20th Century 1 Karel Ancerl (20世紀の偉大な指揮者たち 第1巻 カレル・アンチェル)

初めてアンチェルを聴く方におすすめしたいのがこのアルバム。幅広い年代の録音を選んでいる点、チェコフィル以外のさまざまなオケとの演奏を収めている点もありがたい。同窓生だったクレイチの「セレナード」、スタジオ録音にはないドボ8、トロント響とのマルティヌー第5番など、名演ぞろい。


チャイコフスキー:白鳥の湖/眠りの森の美女/くるみ割り人形

「情景」の冒頭での表現といい、余裕を感じさせつつも隙のない演奏である。「花のワルツ」中間部で弦パート同士が会話するように内声のメロディーをなしていく部分もいい。甘すぎないが、ほどよくロマンの香りが漂う、おすすめの「三大バレエ」である。


Osvobozene Divadlo (プラハ解放劇場)

20代のアンチェルの演奏を聴くことができる。この7枚組はボシュコヴェツとウェリフという劇場の二枚看板へのオマージュであるが、複数の指揮者のなかに確かにアンチェルの名前がある。印象的だったのはディスク2の「Evropa vola」。作曲者自身であるイェジェク指揮のものとアンチェル指揮のものが収められているのだが、アンチェルを聴いて驚いた。別の曲かと思えるほどの軽やかさなのだ。同じく2の「Chybami se clovek uci」でも、のちの名演の片鱗がうかがえる。控えめながら効果的なパーカッション使い。大衆的な作品だけになおのこと、一度聴いたら忘れられなくなってしまう。


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2008年4月11日公開/2024年8月17日更新
高橋 綾(ayat01 @ infoseek.jp)
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